OLD
ロングインタビュー

 OLDの3年ぶりのアルバム『光でも闇でもない』が8月17日に発売された。現メンバーは品川洋(Vo.+g.)と大野量平(b.)の2名。メンバーの脱退が相次いでも活動を存続させ、ライブを演り続け、尚かつ今回のエネルギッシュなアルバムを作り世に問う。その“奥歯を噛み締めたであろう意地“に敬意を表する。そうして出来上がったこの作品は、“北海道のロックバンドの一作品“ではない。2016年の、なんでもアリな国内のロックシーンに確実に楔を打ち込む、実に鮮やかに墨痕を残す、まぁほれぼれするような出来上がりだ。札幌にOLDが存在することを【誇り】と思う。

結成16年、音楽だけを見つめ糧としてきた男達の、つまりは【渾身】ということだ。

                            

                            

今回のインタビューはこちらからお願いをして実現した。このアルバムは、楽曲は、「何か協力できることがあるなら力を貸したい」と願わざるを得ないような、そんな力を秘めていたからだ。 そして、フロントマン・品川を支える大野の本音を知りたく、開始時間をずらして先ずは大野一人に話を聞いた。

                                  取材・文/ 大槻正志(ペニーレーン24)

                            

大野: 「3年前にアルバムを出してからもシナ(品川のこと)はずっと曲作りはしてるんで、コンスタントに作っていました。時間の流れが止まっている感じはないんです。シナにしてみればレコーディングもMIXも全部一人でやっていたから忙しかっただろうし、尚のこと止まっていたということはないのではないかな? このアルバムは何もかも二人っきりで、音に関しては全てシナ一人で作りましたから、他人の手は一切入っていません。ライブはギターやドラムにサポートを入れた事もあるけど、それだと結局これまでの延長線上じゃないですか、編成的に。でも二人だけになってしまったんだから、それを良い方に転化したいねって思っていて、サポート入れずに二人だけでライブをしてみても、レコーディングをしてみても、いい具合になったんですよ。新しいアンサンブルが出来上がりそうというか。だからライブでは打ち込みの音すら使わず、アコギとベースだけで演っていますね。たまに俺がウクレレも弾いたり、まさにアコースティックライブです」


                            

●大野くんとしては2人になった時、葛藤は無かったんですか?

大野:「 俺のスタンスとしては、シナが曲を作るなら俺はやる、ということなので」


●人が抜けるというような外的要因は関係ないと?

大野:「まぁそうですね。シナが曲を作る限りそれがOLDなので。シナが曲を作れなくなったり、ソロでやりたいと言わない限りは二人で続くと思います。人が抜けても食えなくなっても、辞める理由にはならなかったんですよね。食えなくなったんなら別で稼げば良いと思うし(笑)」


●へぇ。

大野:「OLDはシナの負担割合が多いんですよ。詞も曲も作り、アレンジも打ち込みもMIXもマスタリングも全部やって、そして歌ってと。だからもうちょっとメンバーとして力になりたいなという歯がゆい想いはあるんですけど、それで今回『#2』というインストロメンタルの曲を作ったんです。こういう方向性も模索して行きたいな、と。“ナンバーツー”と読みます。4曲作って採用されたのが2番目の曲で。タイトルにはメッセージを込めないで、敢えてこういうタイトルにしました。
シナのブログに書いてあったように、一度バンドを止めようと思ったらしいんですね。もしシナが止めるんなら当然僕も止める訳で、そうなったらどうしよう?とは思いましたけど。やれますしね、二人でも。その『結果』をこうして出せたし」


●結婚しました、子供も生まれました、メンバーも減ってしまいました、それでも辞めようと思わない 、
バンドを続けて行こう、品川くんを支えて行こうと思う、そういう熱量の多さはどこから来るのかな?と思ってね。

大野:「うーん、どうなんでしょう?客観視したら辞めてもおかしくないし、辞めるタイミングは嫌ほどあったし(笑)、でもマイナスな要因も僕らの中ではプラスに変えられて。ネギ(g.の杉村博樹。体調不良により現在無期限休養中)が休んでもスリーピースバンドとしての面白さが分かって。神田くん(Dr.の神田直樹。14年11月に脱退)が抜けても二人組の面白さが分かって。スタッフがいなくなって完全自主となっても、自分たちでコントロールできる面白さが分かったし。金がなくなっても、働きながら純粋に音楽をやる楽しさが分かったし。そうやってプラスに変えられたんですね」


●意地、かね?

大野:「意地も、、、ありますね、きっと。でもシナの作る曲が好き、というのが根っこですね、僕の場合は。そこは変わらないんですね。
この『光でも闇でもない』という言葉はすごく気に入っていて、明るい歌を唄うバンドでもないし、暗い事を唄うバンドでもない、どっちでもなくて、もう一つ次のステージに行けているメッセージ性があるアルバムだと思うんで、こういうコンセプトの曲たちというのを僕は体験した事が無いから、16年やっていて辿り着いた地点なのかな、って思って。いままでのいろんな経験があったから出来たんだろうなと思うし、そんな集大成的な感覚がありますね」


●“これで終わってもいいや”的な、全てを吐き出した遺書のようなアルバムだなと感じました。


ここで品川登場。


●今の心境は?

品川:「今回はレコーディングもMIXもマスタリングも全て自分達で完結させて、非常に孤独な日々でした。辛いというか、作業に於ける純粋なる忍耐もありましたし、一人で集中力を保ったり忍耐力を保ったりというストレスがかなりあり、そこからようやっと開放された安堵感が今あります。初めての試みだったので最後まで行けるかなぁという不安も常にあったので安堵感ですね。
今回のアルバムは、より自分の世界観が強くなって来る予感があったので、5年前にすでに出来ていたM-10『I LOVED YOU』をアレンジし直し、ストリングスを入れるソフトも駆使出来るようになってきたので、それも入れて、こうして日の目を見た曲となりました」



●今回フェイスブックでは歌詞の一部をずっとアップし続けてますよね。

品川:「今回は全曲少しずつ歌詞をアップできる、特定の時間に自動ツイートできる『bot(ボット)』という機能でアップしています。宣伝の一つとして、というのが一番の理由ですが、歌詞による予告編があってもいいんじゃないかなぁと思ったのもひとつ。今回は歌詞の一、二行にも濃い想いを詰めていることが多いので、この方法も面白いと思ったのもひとつで」


●言葉が強くて「遺書」のように全てを吐き出した強い言葉のアルバムだと。

品川:「遺書ではないけれど、それはすごくあって、僕らも長い事、もう16年やっていますけど、メンバーもちょいちょい辞めていくし(笑)」


●OLDっていうのは品川くんが居ればOLDなの?やはりバンドとしてOLDなの?

品川:「今にして思えば、この関係性こそがOLDなんだと思いますね。僕は僕が唄いたい曲を書くし、唄うべき歌を書くし。4人だった時は、他の皆は協力者で、このエネルギーをOLDと呼んでいたんじゃないか。とすると今は大野がいることでOLDと名乗れて、つまりOLDのキーマンは大野量平なんですよ(笑)。
何ヶ月か前に大野にも話したんですけど、ソロとして自分の想いを追求してみたいと思っていた時期もあったんです。でも、今考えると、いろんなものをOLDとして失い過ぎたことによる拒否反応みたいなものがそういう考えにさせたのかもしれないなと思って、こうしてOLDとして作品を発表出来る状況に辿り着けると、もう不満は感じないというか。これが存続出来るのであれば、自分の音楽的追求はOLDでずっと出来てきてるんで、このまま出来るところまで行きたいな、というのが正直な今の気持ちですね」


●作詞作曲をし、アレンジをし、打ち込みもし、アートワークもし、PVまで自分で作ったとなると“ほぼソロ”と言っても良いとも思うんだけど、やっぱり生のベースが入って、サウンド的に相談する相手がいて、自分のやりたいことは全てこの中に詰まっているのだから、やっぱりバンドで作り上げたと叫ぶべき作品なんでしょうね。

品川:「大野も、最近のライブではベースソロでバカテクを披露したりしてるんですけど、それは昔から、5年も10年も前から出来た事なんです。敢えて披露して来なかっただけで。それは他にメンバーがいてそれを支える立場にいたからで、そういうバランス感が大野にはあって、きっと披露することを押さえていたんだと思うんです。でも二人になって、僕を受けつつも単に受け手だけには終わらない柔軟さも出てきて、受け身を自分の主張として出していく、そんな能力が大野にはあるんで、大野が居ることによって、二人だからこそ、僕らしさが出せる部分もあると思うんです。
曲を作るという衝動は続いていています、今も」



●曲がポコポコあぶくの様に浮かんで来るとしてですが、品川くんにとってそれは“完成させたいもの”なの?それとも“聴かせたい”ものなの?

品川:「その辺って自分でも何なんだろうな?と思うんですけど、ハッキリとした答えではないんですけど、自分としては“完成させたい”のような気がします。聴かせたいというよりも、まず自分が完成させたいんでしょうね。生まれてきた子供を二十歳になるまで育てたい、みたいな感覚なのかもしれませんね(笑)。『価値のある存在になるはずだ』という確信というか期待というかがありますね。あと,,,,,生活して行く中で、“造る”ことによって自分の精神が安定するというのもあって、それを求めている部分もあるかも」


●品川くんの中に、安穏としていたい自分ってあるの?

大野:「ははははははは」

品川:「穏やかな自分、みたいなことですか(笑)?」


●うん、なんか敢えてケモノミチを選んでいるような気がしてさ(笑)

品川:「出来ないんですよ。はみ出したくない気持ちはありますよ。でも出来ないんですよ(笑)。何かそういう方に、つい(笑)」

大野:「ははははははは」


●品川くんは作家だから常に葛藤もあるかと思うんですけど、『いい曲』の定義ってなに?

品川:「いい曲の定義,,,,,(しばし熟考),,,,,自分の中ではすべていい曲なんですけど、でも人に“これいい曲だから聴いて”って言えた事が無いので。人がどう思うか分からないから。
ただ、普段人の曲を聴いて、いい曲だなって思うのは、メロディと歌詞がそこにあって、それ以上の魅力が表現されているものは“いい曲だなぁ”って思いますね。単純に音符と言葉が並んでいるだけじゃなく、その奥に人間によって籠められたイマジネーションとか想いとか、不思議なマジックが感じられる曲っていいなぁと思いますね。
でも自分が作る曲にはひとつのボーダーラインみたいなのがあって、それは、自分の中にある本当のこと、本当に感じた事とか、世の中の人全てに普遍的になるかどうかは分からないけど、少なくとも自分がこの曲がラジオから流れてきたらきっと認めるだろうな、これはウソじゃないなって感じられる曲、そういうものを作る事がボーダーラインとして自分に課しているかもしれません。“人はこういうのを求めているんだろうな”ではなく、本当に自分がそこに存在してて求めているもの、という」


●大野くんは品川くんの作った曲を一番先に聴ける立場でしょ?バランス感覚に優れているという大野くんにとって、“これいいなぁ”というジャッジラインって?

大野:「最初には歌詞を聴くんですけど、“どんなことを唄っているのかなぁ”と歌詞を追うんですけど、例えばこのアルバムでいえば僕は『運命』という曲がすごく好きなんですけど、“どんなことを唄っているのかなぁ”と聴いていたはずが、何も考えずに聴いている瞬間ってあるんですね。のめり込む。判断とか感想とかを超える瞬間、それがあるのが僕の中の“いい曲”の定義ですかね」


●年月を経れば人は変化していくけれど、変わらなければならなかったことってありました?

品川:「僕個人で言うと、曲を作ったりとか、非常に偏った能力だけの人で、僕はこれしか出来ないなっていうのがずっとあって、バンドとして世の中に受け入れられるとして、楽曲とか演奏とかという部分に力を入れるしかないなと思っていて、パフォーマンス力とか、エンターテイメント力とか宣伝力とかの中にアーティストっていると思うんですけど、ファッション性も自信がなければ、エンターテイメント性もあまりないし(笑)、自分が本当に追求したいと情熱を持ち続けられるのは、曲作りと演奏する事だけなので。
今回チャンスだと思ったんですよ。自分たちの世界観とか、自分たちと他のアーティストとの違いは何なのかとか、自分が今後音楽をやり続けて行く上で、どうやっていったら情熱的に音楽に向きあえられるのかってずっと考えてきて、それをするには二人だけで運営出来る今の環境は、今までになく掘り下げられるチャンスだと思ったし、集中もできるし、自由だし、今やれる使命はそこだなと思いますね」




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